歴史の教科書


96/11/05

文明国の歴史を辿ると、いずれもとても汚いことをやってきたという事実にぶつかります。

日本がここでこんなことをした、イギリスがあそこであんなことをした、スペインが、アメリカが、いやいや中国などは、・・・

こういう議論は切りがありません。現に今まで切りがなかった。

日本人がかつて他国の人にひどいことをしたことが有ったというのは、紛れもない事実です。私はそのうちのほんのいくつかについて人から聞いたり、本で読んだりして知っています。しかし、その何倍、何十倍、何百倍という数のひどい事件、犯罪が有ったであろうことは容易に想像できます。

しかし、それは、日本人の本来持っている残虐性や不道徳によるものだということは決してない。日本国に特有の歴史でもない。ということもよく知っています。

イギリス人やスペイン人が愚かであったと同様に日本人も愚かであったのです。自分の国の悪事を専ら反省することは、他国の非道だけを責め立てることと基本的に同じ態度です。そこからは何も生まれてこないと思います。

どの国の人間も等しくっもっている愚かさを深く自戒することが大切だと思います。私は決して日本人が他国の人に対して行った惨い行いを正当化しようと思っていません。人として、そのような行いを憎もうと言っているのです。

そういう自覚を日本人以上に欧米人が持っているとは思えません。ある国の国民の一方的な反省は、世界全体のこのような自覚の形成をむしろ阻害するかも知れません。その国の連中が特別に悪い奴らだったのだということにもなりかねない。こちらが反省すれば、向こうも自覚するなどという考えは非常に危険です。政治的に利用されることも現に有る。

歴史の教科書を調べるのであれば、アジアの諸国の教科書や欧米の教科書を同時に調べることを提案します。そしてこの両方と日本の教科書の三つを比べて考えてみてはどうでしょうか。

96/11/06

それぞれの国の教科書に書かれている歴史は、その国の人の目から見た歴史であり、さらに、もしかしたら、自覚しているか否かに関わらず、その国の政治的な意図を含んだ歴史かも知れない。いろいろな国の教科書を見比べることによって、その辺のところが浮かび上がってくるのではないか、というのが私の仮説です。

誤解の無いように言います。どこかの国の歴史教科書がウソを書いていると言っているわけでは必ずしも有りません。

1. 歴史は記述です。

2. 記述である以上、事実の記述であっても、事実そのものではありません。

3. 無数の事実の中からどの事実を選んでくるかから始まって、複数の事実のあいだをどう関係づけるか、どこを強調するかなど、必ず解釈が必要です。

4. 解釈のもとになるのは、解釈する人の世界観と利害と感情です。

5. 教科書は、言うまでもなく子供達の教育を目的としています。

6. 子供は、複雑な因果関係を大人ほどよく理解しませんから、教科書の歴史は、大人用の歴史より、単純化の意図が強く働くでしょう。

7. 子供達の教育が目的であれば、自国の歴史の美化の意図が働きがちでしょう。また、現在またはかつての敵国に対する非難の意図が働きがちでしょう。

少なくとも、以上を念頭に置いて、いろいろな国の歴史の教科書を読んでみる必要があるでしょう。

きっと、アジアの被侵略国の教科書には被害者としての観点、連合国各国の教科書には勝者の観点と現代文明のリーダーの観点がかなりストレートに反映されているはずです。

最も屈折しているのは日本の教科書に違いない。なぜなら、日本は世界公認の加害者であり、同時に敗者で有るのだから。

感情的には自分たちだけが特別な悪者であったなどと言いたくは無いのですが、自らの非を認めひたすら反省の態度を見せることが、世界の中で生きていくために必要だとの打算も有ります。戦争が自分たちにもたらしたのは不幸と苦しみ(他国民を悲惨な目に会わせたという反省の苦悩も含めて)だけだったという体験から強烈な後悔も残りました。さらに、ついこの間まで、日本国内には見えない冷戦が存在していたのです。

96/11/10

私が以前ロンドンで働いていたとき、部下にMという男がいました。Mは、オックスフォードを卒業したばかりのまだ若いイギリス人でした。大学では言語学を専攻し、フランス語をよく話しました。仕事の覚えも良く、教養もあり、日系の銀行に就職したのですから当然ですが日本人やその他外国人に特に偏見を持っているような人間では有りません。

ある日、外線から架かってきた電話をMが取り次ぎました。そして、彼と同期で入社してきたFというイタリア系カナダ人に向かって言いました。

「F、電話だよ。」

「誰から?」

「名前は言わなかったけど、たぶんcolonialだよ。」

Fは、特に驚く様子もなく電話に出ていました。

私は、Mに確かめました。

「colonialって言った?」

「たぶんカナダ人だと思いますけど。」

Mも普通の顔で答えます。

私はMに、日本でそんな言い方をしたら大変だという話をしましたが、彼はただポカンとしていました。イギリス人にしてみたら当然なのでしょう。イギリスの植民地の人を植民地人と言っただけなのですから。植民地とか植民地主義といった言葉に対する罪悪感はおそらく英国の教科書には含まれていないのだろうと思いました。

「植民地」という言葉を聞いただけで自動的に後ろめたい感情を抱いてしまう国民というのは日本人以外にはいないように思うのですが、どうでしょう?

もう一つ、東京で小さな外資系の会社で働いているとき、中国人の若い女性をアルバイトで雇っていたことがあります。この人は東大に留学してきている人でした。ある時雑談をしていると彼女が言いました。「中国では日本人は悪い人ばかりだと教えられていたので、日本へ来てからしばらくは、日本人が怖くてしょうがなかった。実際はいい人ばかりなので驚いた。」

さて、日本の教科書の方ですが、このリンクで発言を始めてしまったものですから、一昨日、先日テレビで紹介されていた藤岡信勝著「教科書が教えない歴史」という本を買おうと書店へ行ってみました。ところが生憎その本は無く、同じ著者の最新刊「汚辱の近現代史」(徳間書店)というのが有ったので買ってきました。読んでみると如何に日本の歴史教科書が自虐的かということがよくわかります。

みなさんも是非お読み下さい。

96/11/10

私は1987年から1990年までイギリスに住んでいました。上の子供が、小学校2年生になる直前に帰国しました。その子のためにイギリスで買った子供用の歴史事典がここにあります。息子はまだ小さかったので結局それを読むことはほとんど有りませんでしたが。

"1,000 GREAT EVENTS - Through the Ages" というタイトルで1988年にロンドンのHAMLYNという出版社から出版されたものです。全351頁です。小学校高学年から中学生ぐらい向けだと思います。

これで "OPIUM WAR" アヘン戦争を引いてみました。

引用開始

1840

First China War

This sordid war between Britain and China had complicated origins. It was fought over trade, and it is sometimes called the Opium War, because this drug was being illegally traded by British and Chinese merchants. All British opium was surrendered on the command of the Chinese government in 1839, but Britain spoiled its case by later demanding compensation. There were other grievances, including an attack on a British warship, which led to war.

At the Treaty of Nanking (1842), the Chinese made concessions to British and other foreign merchants, but neither side was happy, and war began again after the Chinese had imprisoned the crew of a British-registered ship. The British foreign secretary was Lord Palmerston, an aggressive patriot who believed in protecting British nationals at any cost. Although the men were released the Chinese refused to apologize and rejected other demands.

Britain and France, passively supported by other countries, then resorted to force, and the Chinese were compelled to give way when a military expedition reached Peking in 1860. The opium trade was reinstated on the grounds - cynical but true - that the Chinese authorities were incapable of stopping it.

引用終わり

私の和訳

 この英国と中国の間の強欲な戦争は複雑な事情から起こりました。それは、貿易をめぐっての戦争で、アヘン戦争と呼ばれることもあります。この麻薬が英国と中国の商人によって不法に取り引きされていたからです。1939年中国政府の命令によりすべての英国のアヘンは引き渡されましたが、英国はその決定を無効として後にその代償を要求しました。ほかにも、英軍艦に対する攻撃などの恨みがあり、それらが戦争を引き起こしたのでした。

 南京条約(1842)において、中国は英国やその他の外国の商人に譲歩しましたが、双方に不満が残り、中国が英国船籍の船の乗組員を投獄した後、再び戦争が始まりました。英国の外務大臣はパーマストン卿でした。彼は積極果敢な (aggressive) 愛国者で、どんな犠牲を払っても英国国民を守るべきだと信じていました。乗組員は解放されましたが、中国は謝罪を拒否し、他の要求も拒絶しました。

 そこで、英国とフランスは、他国から消極的な支持を受け、武力を行使しました。遠征軍が1860年に北京に到達すると、中国は譲歩せざるを得ませんでした。アヘン貿易は再開されました。中国当局がそれを止める能力を欠いていた−皮肉だが真実です−からです。

和訳終わり

みなさんは、これをどう読みますか。

96/11/19

ただ、子供の教科書にどこまで書くかというのは、もう一つ別の観点から問題として残るかも知れません。他国の行為としてでも自国の行為としてでも、残虐行為の具体的な描写を子供達に与えることに、害はないのか。そういうこともどこかの時点で教えることの必要は認めますが、かなり大きくなってからの方がいいのではないでしょうか。もし、児童心理学とか、精神分析などに詳しい方がいらしたら、是非、教えていただきたいのですが。

96/11/24

アラブの世界には、「血であがなえるものを汗であがなう者は卑怯者である。」という言葉が有るというのを聞いたことがあります。これは私の価値観に合致するものではありませんが、私にもよく理解できるものです。極論に違いないが、同意する人は世界に少なくないかも知れない。

これをちょっと言い換えて、「血であがなわなければ済まないものをカネであがなおうとする者は卑怯者である。」とすると、相当多くの人たちに指示されるだろうと思います。

さて、「優勝劣敗」という原則が、国際政治の原則でなくなる日は来ないと思います。また、「客観的な」歴史解釈なども有り得ないと思います。この二つの命題は同値です。互いに他の必要十分条件です。

強いものが、弱いものと平等に裁かれるためには、この「平等」を保証するシステムが存在しなければなりませんし、裁くための基準と機構がなければなりません。国連は十分にこの機能を満たし得ません。

近代国家には、法律があり警察があり裁判所があります。その国家の中でさえ、本当の「正義」が常に行われているかどうか疑問のあるところです。これはこのフォーラムの参加者全員の意見でしょう。国際政治の場には、 これらに匹敵するシステム、権力機構が存在しません。

即ち、国家間で紛争が起こったとき、どちらのどこまでの行動が「正しいか」を客観的に決めることなど出来ないのです。

キッシンジャーが指摘するまでもなく、アメリカ人は(アメリカの国民の多くは)「正義」や「人道」を国際政治に持ち出すのが好きです。しかし、その「正義」や「人道」はどこまで行ってもアメリカ人の「正義」であり「人道」です。日本人ももっと好きかも知れない。

人間界の争いごとを裁くというのは、大変難しい業です。一国の法律に基づいても時には大変に難しい。厳密な意味で法律が存在しない世界には無理です。

CNNがどんなに頑張っても、原理的に限界がある。結局は無理です。世界国家が出来ない限り。

それで、私の主張というのは、世界中の人が、特に日本人が、そのことをはっきり認識することが必要だということです。

最初に戻る

最終更新日 : 平成十五年二月二十日